結節地域研究の定量的分析手法

 

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(1)前書き

久しぶりに学生時代に読んだ、「地域概論」(木内信蔵 著)を引っ張り出し、「結節地域とは何か」という定義にさかのぼって復習してみた。この本(東京大学出版会 刊行)の95ページを読むと、「結節地域(nodal region)」とは、American Geographyおよび木内の命名であることがわかる。Quinnと松井は「統一地域(integrated region)」と呼んでいる。下の図を御覧になるとおわかりになるように、例えば、「渋谷」というものをひとつの等質地域(uniform region)とし、「自由が丘」をまた別の等質地域、「武蔵小杉」をさらに別の等質地域とする。これらの異質な地域を統合するもの、例えば、人の往来、文化・ファッションの伝播、等々をとらえようとするときに、「渋谷―自由が丘―武蔵小杉」という3つの節(node)を結合する結節地域という概念が現れてくる。(「自由が丘」とその南隣の駅「田園調布」の境界(行政上の境界ではなく、「地域スペック」とでもいうべき「地域の特質」でみた境界)はどこなの?という議論は、「結節地域」の問題ではなく、「地域の区分」の問題である)

東横線、南武線周辺の「結節地域」モデル適用範囲(Excelで作成してみたところ)

この「地域概論」という本全体について言えることだが、定量的な分析の話がなく、述語の説明、地理学史の総覧となっているのは残念なことである。私がめざしている「地域マーケティングの深化」という目標を実現するためには、自分自身で定量的分析のための理論を編み出していかなければならない。何か面白いアイデアが思いついたら、随時、このページで報告していきたい。現状では、例えば、名古屋大学のホームページでは、

http://krd.roshy.human.nagoya-u.ac.jp/~noboru/Tokaikenkyu.html

「電話の受発信」という定量的データをもとに、「結節地域の分析」を行っていることを報告している。「電話の受発信」は、「鉄道輸送人員」「交通量」などと並ぶ、基本的なデータ(分析材料)であることには違いない。しかしながら、米国に設置したサーバー「.com」に日本の地域情報、日本語掲示板、さらにまた国内間のインターネット電話の媒介機能をもたせることが常識となった今、旧来の地域間の「電話の受発信」が、分析データとしては不充分なものとなりつつあることは誰の眼にも明らかである。

また、もうひとつの「おなじみの」例として、中学生・高校生用の地図帳によくある、「輸送人員」が多いほど線を太くした鉄道路線図がある。これは、「鉄道網」を結節性という観点から評価した、ひとつの分析手法といっていいだろう。

 

(2)連立方程式による分析

分析に使用する数学モデルは、差し当たっては、非常に単純かつ明瞭なものである。例えば、「鉄道輸送人員(ある一定時間帯における)」をデータとして使用するとすれば、武蔵小杉駅については、

A1: 武蔵中原→武蔵小杉 の輸送人員

A2: 武蔵小杉→武蔵中原 の輸送人員

B1: 武蔵小杉→向河原 の輸送人員

B2: 向河原→武蔵小杉 の輸送人員

C1: 元住吉→武蔵小杉 の輸送人員

C2: 武蔵小杉→元住吉 の輸送人員

D1: 新丸子→武蔵小杉 の輸送人員

D2: 武蔵小杉→新丸子 の輸送人員

E1: 武蔵小杉駅で乗車する人員(バス等からの乗り換え + 武蔵小杉駅周辺から到着)

E2: 武蔵小杉駅で降車する人員(バス等への乗り換え + 武蔵小杉駅周辺が目的地)

とすれば、

A1+B1+C1+D1+E1 = A2+B2+C2+D2+E2

となる。この方程式を首都圏各駅で作成し、非常に項の数の多い連立方程式を作成、コンピュータで解くことができる(簡単に解くためには行列式の知識が必要)。A1からD2までのデータは、各鉄道会社への聴取や、政府刊行物等によって入手可能である。E1、E2については、駅前において計数することが必要となろう。E1、E2の中を細かく分析し、どうしても計数できないデータがあれば、それが未知数となる。

このようにして、数学的には単純、データ数は膨大という問題を解くことによって、武蔵小杉周辺における人の集まり方を定量化できるし、さらに、首都圏各駅についても定量化し、各駅間での比較が可能となる。さらに時系列を追ってデータベースを構築することによって、時間帯による人の動きの変化、季節的変動、さらには経年的な変動をとらえ、その街が「発展」しているのか「衰退」しているのかを明らかにしていくことも可能になる。(もちろん、武蔵小杉に集まる人間は、マイカー等も利用する。鉄道、マイカー、バス、自転車、徒歩を含めた複合的な分析が必要となる。 

 

(3) 「鉄道Lebesgue積分」と「駅測度」

小生がこの概念を提出しようと思いついた背景には、例えば、東急・小田急・阪急は「文教路線」、京成・阪神は「下町路線」といった「レッテル」を定量的に評価するにはどうしたらいいのかーーー!という課題につきあたったからなんじゃーーー!!

よくやられる方法に、東横線沿線の大学(渋谷周辺を除外すると)、産能大学、慶応大学、神奈川大学、フェリス女学院大学の4校から、「4」という数値データを採用する方法があるが、この方法では、「路線の長さ」「駅から大学までの距離」「平均駅間隔」「鉄道輸送力」といったデータが落とされてしまう。せいぜい、4を「路線の長さ」で割った「路線の大学密度」を定義するくらいが関の山。そこで、曲がりくねった東横線沿いに、文教度をあらわすパラメータを積分する「線積分」をしてみたら?と考えたのじゃが、この伝統的なRiemann積分では「鉄道」のもつ特殊性を無視してしまうことになるのじゃ。人々は鉄道を駅という「点」で利用するのであって、もし積分するのであれば、「駅」という点ごとに、「文教パラメータを駅測度上で積分」を計算し、全ての駅について足し合わせることが必要なのでは?と「鉄道Lebesgue積分」を考えついたんじゃーーー!!

さて、「駅測度」とは何ぞやということじゃが、積分のための「重み」と考えてよかろう。本来「測度」とは積分する区間の長さを表すものじゃ。鉄道が点で利用されるという特殊性をもつがゆえに、また、鉄道の便利さは、「アメニティー」「快適さ」といった定性的なファクターをも包含するがゆえに、「駅測度」の単位は必ずしも「長さ」の単位に限定されるものではない。「じゃ、どういう単位が適切なの?」という疑問に対しては、今、考えているとこなんじゃー。

さて、この「鉄道Lebesgue積分」がどういった形で「JOB興し」に貢献するの?といった疑問に対する回答は、・・・不動産会社のパンフレット作成部署に就職するための門戸を、コピーライターの才能をもつ学生や、不動産法務に詳しい学生から、数学科卒業生にも開放するということが、まず挙げられる、ということ。それから、新しい「都市」の分析手法として○○総合研究所でのレポート作成の道具となりうるということであります。

この「測度」という術語。「ルベーグ積分」のみの専門用語かと思っていたら、ネットサーチの結果、結構いろいろな分野で使われていることがわかりました。そして、小生の目指す分野に近いところで使っているのを、下記のサイトで確認いたしました。

http://urban.tutrp.tut.ac.jp/~igarashi/research/clarkes_calibration/

 

(4) 山手線と複素関数論

複素関数論による考察は、山手線のような環状線の分析に適していると考えます。

留数の定理によれば、積分路Cに対する周回積分は、

∫(C) f(Z)dZ = 2πiA (Aは留数)です。

積分路Cの中に特異点がなければ(aが正則点)、A=0となります。

aが特異点であれば、Aは0でない値をとることがあります。

そこで、Cを山手線とし、周回積分をした結果、0とならなければ、山手線内に特異点があることになります。具体的な測定方法は、山手線の電車が走ることによって電車の実験室内の導線に発生する微小電位を計測し、計測結果をアキュムレートしていき、山手線電車が1周走り終わったところで、アキュムレート値が0か否かを観測することによります。

話を「鉄道ルベーグ積分」「駅測度」にもどしますと、「測度」という術語は現在、数学以外の分野に概念が拡張されていることを既に申し上げました。そこで、議論をより明確にするために、今後、「測度」の概念を理論数学における概念に限定するのはどうかな?と考えました。そのために、「駅測度」と言わず、別の言い方をすることが必要になるのではないか?と・・・。

「ルベーグ積分」「測度」に関する教科書を紐解いてみますと、まず、「1点の測度は0である」と書いてあります。また、ルベーグ測度m(S)の定義として、

∫(a→b) f(x)dx = m(S)

と書かれています。従って、ルベーグ測度は積分された「結果」ではありますが、もう一方で、測度空間上での積分、

F(A) = ∫(x)m(dx) を定義することができます。この過程で、「完全加法的な測度概念」という新種の「測度概念」が、数学理論の中でも枝分かれしてきています。

「駅は点である」と私は主張していますが、「点」だからといって、「測度0」では困ります。やはり、数学理論に反しない範囲で、新しい「測度」概念を提出することが必要かな?と考えます。

以上、話がごちゃごちゃしてきましたが、目標は、あくまでも、「鉄道路線のもつ定性的な属性を定量化するために、ルベーグ積分&測度の理論を応用できないか?」ということにあります。そういった考察の過程の中から、「鉄道」「駅」に対する既成概念が(眼からうろこが落ちるように)取り払われ、新ミレニアムにふさわしい新しい「鉄道」「駅」のイメージが生まれてこないかと思っておるわけです。考察がもう少し進んだら、また後に報告いたします。

 

(5) 測度論、複素関数論による分析(その2)

「複素積分」は経路を問題にしません。従って、東京から新宿に行くのに、品川経由で行こうが、巣鴨経由で行こうが、計算結果は同じになります。東京駅から出て1周して東京駅に戻ると、山手線内に特異点がない限り、積分結果は0となります。ブラックホールが存在すれば、恐らく、ブラックホールは特異点であり、1周して行き着いた東京駅は出発点の東京駅とは別の東京駅(積分結果は0ではない)ということになるんでしょうか?

いずれにせよ、乗客の心理の観点からは、巣鴨経由で新宿に行くのと、品川経由で新宿に行くのでは心理状態が異なるわけですから、複素積分論は鉄道路線の分析には不適切ということになります。

ルベーグの測度は、求積をする際の被覆の極限を考察するわけであり、また、朝倉書店「ルベーグ積分30講」(p.53)に、

「S(可測集合)自身の究極の姿は、結局は残された零集合の中に隠されている。これが、ルベーグが学位論文で明らかにした、可測集合の姿であった。可測集合のもつこの姿は、いまも変わらない。ということは、零集合というものに、もうこれ以上どう近づいてよいかわからないということである。零集合は、測度0という厚いヴェールの中に閉じ込められて、かたくなな沈黙を守っている。」

とあります。「駅」というゼロ点に対する考察を深めないと、鉄道路線の分析はできないと小生は考えているわけですから、「わからない」と宣言しているルベーグ積分を離れて、独自の「鉄道積分理論」をうちたてる必要があるのかな?と考えております。

 

(6) ベクトル解析(線積分)と変分法

ベクトル解析(線積分)と変分法を「鉄道積分」に応用できないか?と考えてみました。どちらも、数学的に解けるのは(現実的な意味では)非常に特殊な問題を解くケースに限られ、机上の空論となる恐れがあります。従って、「A駅を起点としB駅を終点とする旅行者が、A駅、AB間の車中、B駅のアメニティーをもとに感じる快感の合計値を求む」という当初の課題の一般解にはなり得ません。この課題の解決には長い時間を要すると思われます。

(6-1) ベクトル解析(線積分)

X軸を経度、Y軸を緯度とし、池袋駅の座標を(0,2)、新宿駅の座標を(0,0)、東京駅の座標を(4,0)とします。X = t とすれば、池袋・東京間の直線は、Y= -1/2*t + 2 とあらわされます。ここで、新宿からの距離は、SQRT(X^2 + Y^2)ですが、SQRTがあると計算が複雑になるので、距離をX^2 + Y^2 と仮定します。この距離の関数を「池袋・東京間の直線」上で積分した結果は(営団地下鉄丸の内線が直線状であり、しかも現実と反して全て地上区間であるとします)、ベクトル解析の教科書に基づいて計算すると、答えは、(94/6)*SQRT(5) (約35)になります。この35のもつ意味は・・・・

例えば、新宿に放送局があり、放送局から離れるほどに電波が弱くなり、車中で視聴する人のフラストレーションが鬱積する。このフラストレーションをX^2 + Y^2とすれば、池袋・東京間の間で乗客に蓄積したフラストレーションは35である。ということになるのでしょうか?現実的にこのような問題を解く必要性はきわめて小さいです。現実的な問題を解こうとすると解析的には解けなくなります。

(6-2) 変分法

A駅、B駅の区間の輸送人員の変化が複雑な曲線で表されるとして、「輸送人員関数およびその微分関数」から導かれる関数(例えば、乗客の快適度?)を極大・極小にするためには、「輸送人員関数」はどのような形状であるべきか?という課題の解決にはなります。ですが、この解法で得られた理想的な輸送人員関数となるように鉄道会社が設備投資を行う可能性はきわめて小さいといえましょう。

 

(7) ファジイ積分

同目的を「ファジイ積分」によって考察しているというウェッブサイトを見つけました。

http://kyu.pobox.ne.jp/softcomputing/fuzzy/fuzzy8.html

 

(以下、続く。)